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広島地方裁判所 昭和31年(行)14号 判決 1959年10月03日

尾道市吉和町字古浜二七番地の五

原告

中国化学機械株式会社

右代表者代表取締役

正木和雄

右訴訟代理人弁護士

高橋一次

同市東御所町

被告

尾道税務署長 近藤利一

法務大臣指定代理人

加藤宏

被告指定代理人

米沢久雄

笠行文三郎

森田政治

田原広

常本一三

右当事者間の昭和三一年行(第)一四号青色申告確認並びに法人税等の更正及び再更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の申立

(一)  被告が昭和三一年一月三一日原告に対してした原告の昭和二七年一〇月一日から昭和二八年三月二〇日までの事業年度分法人税の所得金額を金五九四、二〇〇円法人税額を金二四九、五六〇円、過少申告加算税額を金四、四〇〇円とする再更正処分を取消す。

(二)  被告が前同日原告に対しした、原告の昭和二八年三月二一日から同年九月二〇日までの事業年度分法人税の所得金額を二、三九八、五〇〇円、法人税額を金一、〇〇七、三七〇円、無申告加算税額を金七七、〇〇〇円とする再更正処分を取消す。

(三)  被告が前同日原告に対してした、原告の昭和二八年九月二一日から昭和二九年三月二〇日までの事業年度分法人税額金一二四、二三〇円の還付を取消すとの更正処分を取消す。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、被告の申立

主文と同旨の判決を求める。

第三、原告の主張

(一)  原告は被告に対し、原告の昭和二七年一〇月一日から昭和二八年三月二〇日までの第七期事業年度、昭和二八年三月二一日から同年九月二〇日までの第八期事業年度、及び昭和二八年九月二一日から昭和二九年三月二〇日までの第九期事業年度の法人税の確定申告として、右各年度はいずれも欠損を生じ、所得はなかつたとそれぞれ申告したところ、被告は第七期事業年度分の欠損額を金二、六五八、五九七円とする更正処分、第八期事業年度分の所得金額を金五六四、三〇〇円、法人税額を金二三七、〇〇〇円、法人税額を金一二四、二三〇円とする更正処分をした。次いで原告は被告に対し昭和二九年三月二一日から同年九月二〇日までの第一〇期事業年度分の法人税の確定申告として、当年度も欠損であつて所得はなかつたと申告するとともに、法人税法第二六条の四の規定に基き第九期事業年度分法人税額金一二四、二三〇円の還付を請求したところ、被告は第一〇期事業年度分の欠損額を金一、六四五、一七一円とする更正処分をした上、原告に対し右第九期事業年度分法人税額を還付した。しかるに、被告は昭和三一年一月三一日、原告が青色申告の承認を受けていないとして、第七期事業年度分の所得金額を金五九四、二〇〇円、法人税額を金二四九、五六〇円、過少申告加算税額を金四、四〇〇円とする再更正処分、第八期事業年度分の所得金額を金二、三九八、五〇〇円、法人税額を金一、〇〇七、三七〇円、無申告加算税額を金七七、〇〇〇円とする更正処分、及び第九期事業年度分法人税額金一二四、二三〇円の還付を取消すとの更正処分をして、同年二月四日その旨を原告に通知した。そこで原告はこれを不服として、同年同月二七日被告に再調査の請求をしたが、右請求は審査の請求とみなされ、同年七月六日広島国税局長において右請求を棄却する旨の決定をし、その頃原告に対しその旨の通知をした。

(二)  しかし、被告の前記各再更正処分及び更正処分は、いずれも次の理由によつて違法であるから、取消さるべきである。

原告は青色申告制度がはじめて設けられた昭和二四年四月頃、北税務署長に対し青色申告承認申請書を提出したが、原告が青色申告をしようとする昭和二五年四月一日から同年九月三〇日までの第二期事業年度の終了の日までに右申請の承認又は却下の処分を受けなかつたので、法人税法第二五条第六項の規定により右申請の承認があつたものとみなされたものである。さればこそ原告は毎事業年度の申告期日前に所轄税務署から青色申告用紙の送付を受け、第二期事業年度から第一〇期事業年度に至るまで毎事業年度継続して、所轄税務署長(第二期事業年度分は北税務署長、第三期事業年度分は生野税務署長、第四ないし第一〇期事業年度分はいずれも被告)に対し、青色申告をしてきたのであつて、課税の取扱上においても、いわゆる青色申告法人として、第三期事業年度、第七ないし第一〇期事業年度分の所得額の算定について、法人税法第九条第五項の規定による繰越欠損金の控除の取扱が認められたばかりでなく、第一〇期事業年度においては前記のとおり同法第二六条の四の規定による法人税の還付も認められているのである。従つて、原告が青色申告の承認を受けていないということを理由とする被告の前記各処分はいずれも違法である。

第四、被告の答弁及び主張

(一)  請求原因一記載の事実及び請求原因二記載の事実のうち、原告が被告に対し原告の第四期事業年度、第六ないし第八期事業年度、第一〇期事業年度分の法人税の確定申告をいずれも青色申告の形式でしたこと、原告の第三期事業年度、第七ないし第一〇期事業年度分の所得額の算定について繰越欠損金の控除が認められたことは認めるが、その他の事実は否認する。

(二)  原告の第二、三期事業年度、第五期事業年度、第九期事業年度分の各申告は通常の白色申告であり、しかも第二期事業年度分の申告は申告期限をはるかに徒過した昭和二六年五月一一日に生野税務署長に対してなされているのである。被告が本件各処分以前、告告を青色申告の承認を受けたものとして取扱つたのは、当時原告の監査役であつた正木和雄が被告に対し、原告は既に青色申告の承認を受けたものであると称して第四期事業年度以降青色申告(但し第五、九期は白色申告)の形式で申告したので、その旨を信じたためであつたが、その後昭和三〇年九月に至り、原告が青色申告承認申請書を提出した事実は全くないことが判明したので、法人税法第三一条の二、第一項の規定の制限に従い、原告の第七期事業年度以降の各申告を通常の白色申告として処理することとし、第七、八期事業年度分の所得額の算定について、繰越欠損金の控除を否認し、第九期事業年度分法人税額の還付を取消したのである。従つて本件処分は何ら違法ではない。

第五証拠

原告訴訟代理人は甲第一号証の一ないし四、第二号証の一、二、第三、四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第一〇号証を提出し、証人中村克己・同杉本年・同青山義人・同吉川富雄の各証言並びに原告代表者正木和雄本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人等は、乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし四、第六号証の一、二、第七ないし第九号証、第一〇号証一、二、第一一号証を提出し、証人乾数・同井藤通雄同粟武男の各証言を援用し、甲第一号証の三、四、第二号証の一、二、第三、四号証、第五号証の一ないし三、第六号証、第九号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は知らない。と述べた。

理由

一、請求原因(一)記載の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで原告が昭和二五年四月項、北税務署長に対し青色申告承認申請書を提出したか、どうかの点について、検討することとする。

(一)  証人中村克己・同青山義人及び原告代表者正木和雄等は昭和二四年四月項、原告の尾道工場に会計係として勤務していた中村克己が原告会社本店を管轄する北税務署長宛の青色申告承認申請書の原稿(甲第一号証の一)と原告会社本店宛の青色申請書提出依頼の件と題する書面(甲第一号証の二)を作成した旨を述べているけれども、甲第一号証の一、二は鉛筆書の原稿であつて、事務担当者の捺印もない上、同人等の供述によれば、それは本件更正通知書が原告に交付された後約十ケ月を経過して本訴提起の直前頃発見されたものであるというのであるから、果して真正に成立したものであるか、どうかは甚だ疑わしいといわざるを得ない。又、証人中村克己は、同人が右原稿に基き青色申告承認申請書を作成し、原告の本店に送付したかどうかについて全く記憶がないというのであり、証人杉本年も、同人は当時原告の本店において経理事務一切を担当していたが右の各書面はいずれも見たことがないと述べているのであるから、右の各証拠をもつて直ちに原告がその主張の頃青色申告承認申請書を提出した事実を認めることはできず、他に右の事実を積極的に認定するに足りる証拠は見当らない。

(二)  ところで、原告が、その第四期事業年度、第六ないし第八期事業年度、第一〇期事業年度分の法人税の確定申告をいずれも青色申告の形式でしたこと、原告がその第三期事業年度、第七ないし第八期事業年度の課税の取扱上において、青色申告の効果である法人税第九条第五項の規定による繰越欠損金の控除が認められ、第一〇期事業年度におい同法第二六条の四第一項の規定による法人税額の還付が認められたことは当事者間に争いがなく、証人青山義人の証言により真正に成立したものと認める甲第八号証によると第九期事業年度分の申告も青色申告の形式でなされたものであることが認められる。又、成立に争いのない甲第六号証、乙第一号証に証人吉川富雄の証言によると、当時大阪国税局管内の各税務署においては、納税者から青色申告承認申請書が提出されると、総務係がこれを受理し、署文書収受簿に登載した上、法人税係に回付し、同係において、収受事件整理簿と法人原簿に登載した上、これを法人税決定決議書綴に編綴する取扱いになつていたが、当時北税務署においては右の処理が必ずしも適確に行われていたことはいえない状況にあつた上、右署文書収受簿及び右収受事件整理簿は既に廃棄処分に付され、右法人原簿も見当らないことが認められる。以上の事実を合わせると、他に特段の事情が認められない限り、原告がその主張の頃北税務署長に対し青色申告の承認申請をしたと推認することも決して無理ではない、というべきである。

(三)  しかしながら、成立に争いのない乙第五号証の二、三、第八号証に証人青山義人の証言及び原告代表者正木和雄本人尋問の結果によると、原告は昭和二四年一〇月項、北税務署長に対し、昭和二五年三月一日から同年九月三〇日までの事業年度の確定申告をしたところ、昭和二六年五月頃当時の原告会社本店を管轄する生野税務署長から右申告を昭和二五年三月一日から同年三月一日までの第一期事業年度分の申告と、昭和二五年四月一日から同年九月三〇日までの第二期事業年度分の申告とに分けて申告するようにとの指示を受けたので、昭和二六年六月一一日、第二期事業年度は欠損である旨を白色申告用紙で申告したこと、右申告に対する申告是認決議書の「青色申告か否かの区分欄」には、右申告が白色申告である旨が記載されていることが認められるから、右申告は青色申告ではなかつたことが明らかであり、成立に争いのない乙第五号証の四、第九号証に証人乾数の証言によると、原告の第三期事業年度分の申告の用紙は白色申告用紙であつて、青色申告である旨の注記もないこと、北税務署から生野税務署に回付された原告の法人税決定決議書 には青色申告承認申請書は編綴されていなかつたこと、右第三期事業年度分の申告に対する申告是認決議書の「青色申告か否かの区分欄」にも右申告が白色申告である旨が記載されていることが認められるのであつて、以上認定の事実に証人乾数の証言を綜合すると、生野税務署長が前記のとおり、原告の第三期事業年度分の申告を是認して青色申告の効果である繰趣欠損金の控除を認めたのは、当時法人税の処理に忙殺されていた同税務署長がその処理を誤つたものと認めるのが相当である。又証人井藤通雄の証言によると、被告が本件各処分以前、原告を青色申告の承認を受けたものとして取扱つたのは、原告がその主張の頃、北税務署長に対し青色申告の承認申請をしてその承認を得たものであると称して、第四期事業年度の申告を青色申告(但し第五期は白色申告)の形式でしたので、生野税務署長の前記のとおりの取扱からみて、原告が真実青色申告の承認を受けたものと信じたことによるものであることが認められるから、原告が長期間にわたり青色申告法人として取扱われてきた事実も、必ずしも原告主張の事実を推認させる有力な資料とすることはできない、といわざるを得ないのである。

以上認定の事実に徴すると、前記(二)に認定の事実だけでは未だ原告がその主張の頃、北税務署長に青色申告承認申請書を提出したとの事実は容易に推認することはできないし、他に右事実を認める証拠はない。

三、ところで、法人税法第九条第五項の規定による繰越欠損金の控除及び同法第二六条の四第一項の規定による法人税の還付を主張し、これを認めない課税処分の取消を求めるについては、原告において青色申告の承認申請をしたことを立証する責任があるところ、この事実を認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないというべきである。

四、よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮田信夫 裁判官 西俣信比古 裁判官 山田和男)

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